2011年8月12日金曜日

東北復興支援策の深層~「百姓」文化の底力~④


●「新たなビジネスプランの深層」

7月1日、今年で2回目となる農業技術通信社主催のビジネスプランコンテスト
「A1グランプリ2011決戦大会」が開催された。
実行委員長の昆吉則社長は
「目線のそろった異質な業界の仲間が集まることで、
農業がもっている様々な可能性を引き出したい。」と狙いを語った。

審査委員には、
宮城大学副学長で事業構想学部長を兼任する大泉一貫氏をはじめ、
農政改革派のスペシャリスト11名が顔を揃えた。

登壇したのは全国の5つの地方大会を勝ち抜いてきた
11名のプレゼンターたちである。

評価基準の中には「想い」という項目が含まれている。
そのためか、プロの農業経営者による現実的な経営改善策だけでなく、
異業種からのベンチャースピリッツあふれる内容も多かった。



<写真提供:農業技術通信社>


グランプリを獲得しのは、
普段は自動車や建設機械などの部品を供給している町工場集団、
株式会社下請の底力(チーム代表:羽廣保志氏)。


同社は本業を営みながら地域の農家からの依頼で
農機具の修理や改造を手がけてきた経験を生かして、
「下請の底力 農機具カスタマイズ計画」を展開していくという。

例えば、小型耕運機のエンジン側のプーリーの径を大きくすることで
エンジンの回転数を抑え、燃費・作業時間・騒音を改善させるなど、
農機具のカスタマイズへのニーズは高いという。

その背景には、日本の農機具販売店は、修理は受け付けてくれるが
改造や改良に関してはほとんど対応してくれないという現実がある。

今後、手掛けた案件をデータベース化して、
全国にネットワークを構築する予定で、
部品の共有化も進めていく考えだ。

各地でサービスを提供するスタッフは、
新たな仕事を探している全国の町工場や
農機具販売店を退職した技術者などを組織化していく。

トヨタ自動車が国内生産の体勢を再整備する動きもでてきたが、
町工場の現場感覚として、
自動車産業だけを頼りにすることには限界があるとの判断は的を得ている。



●「百姓」の誇りを取り戻せ!

地方の町工場の技術者の中には、
もともと実家や親類は農業に携わっていたという方が数多く存在するが、
羽廣氏もその一人である。

「私の叔父は農業と林業を生業にしていました。
『百姓』という言葉は農民のことを指して使われることが多くなりましたが、
昔はもっと広い意味で使われていたはずです。
今回のプロジェクトは、
バラバラになった『百姓』文化を再構築したいという思いもあるんですよ。
そのことが東北復興にも繋がるんじゃないかと…」

実は江戸時代にまでさかのぼると、
日本人のほとんどは同じところにたどり着く。

「百姓」である。

羽廣氏が言うとおり、
「百姓」とは、もともとは
「農民」、「山民」、「漁民」、「職人」、「商人」など、
様々な仕事を生業とする人々全てを指す言葉だった。

特に地方都市では、
多才な「百姓」の活動が地域経済を支えていた可能性があることを
歴史学者の網野善彦が分析している。

「農民」が農閑期に手工業品を生産したり、
農家の嫁が商売をしたり、
さらには、遠く沿海州にまで船を出して
交易していた豪農の記録も発見されている。

こうして手にした収入は、
石高には現れない形で地方の実体経済を支えていたのである。

現在の労働市場に置き換えてイメージするなら、
個人事業主や中小企業、ベンチャー企業のオーナーといったところだろう。

近代以降、日本では、
「職人」文化は中小企業の技術力に昇華し
大手メーカーの企業文化を形作り、
「商人」文化はビジネス社会全般に広まって
大手商社の発展に実を結んだと解釈することができるのではないだろうか。

ちなみに、
金融機関は現在では「商人」文化の一翼を担う形で高度化され、
グローバル化されてきたことは周知の事実である。

しかし、分断された「農民」、「山民」、「漁民」の文化の担い手だった
「百姓」の多くは、有機的なつながりから絶たれて孤立し、
保護される対象として囲い込まれてしまった。

つまり、農業、林業、漁業を再び活性化させるためには、
切り離されてしまった「職人」文化や「商人」文化を、
第一次産業に取り戻し、
それぞれの智恵を集結させることが肝心なのである。



「A1グランプリ決戦大会」が開催された当日、
重要な経済ニュースが配信された。

コメ先物取引が72年ぶりに認可されたのである。
8月8日から東京穀物商品取引所と関西商品取引所で、
いよいよコメの先物取引が再開される。

元をたどれば、
世界初の先物取引の仕組は江戸時代の大阪で米問屋がはじめたものだ。
その後、1939年に廃止されるまで、
商品先物取引の主役はコメだったのである。


グランプリを受賞して大喜びの同社スタッフのお揃いのTシャツには
「カイゼン」という文字がプリントされていた。



<写真提供:農業技術通信社>


世界に誇る品質管理のノウハウも、
元をたどれば百姓文化から派生したものづくり文化である。

羽廣氏はA1グランプリの東北予選大会に出場した仲間と会場で知り合うと、
さっそく連携の仕組みを作り始めた。
まずはSNSの一つ、フェイスブックを有効活用していく。

具体的な事業スキームにはまだ甘さが残っているが、
彼らは何があっても決して諦めないはずだ。

こうした文化的な側面を重視した理念構築は、
事業を継続していこうとするモチベーションに直結する
大変重要な要素となるからである。


地域経済を支援する本当の意味を考えながら、
息の長い取組みが必要な時だ。



(8月5日発売『近代セールス』8月15日号の特別レポートも合わせて御覧ください。)


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